難破船が招く悪夢
江戸時代(詳細な時期は不明)、苛酷な環境にあった漁村を舞台にした物語です。その漁村は、周囲を岬の断崖などに閉ざされ、狭い海岸線に建てられた十七戸の小さい家々で形成されていました。土地は砂礫で痩せており、傾斜地に段状の耕地を作ってはいるものの、乏しい作物しか育ちません。漁獲物と穀物を交換するため険阻な山道を超えて他の村落へ行っても、得られる農作物が家族の空腹を癒すほどではありませんでした。
飢えから逃れるため、彼らは異様な風習を持っていました。——お船様。嵐の夜、浜で火を焚き、村の前面に広がる岩礁で船を座礁させ、その積荷を奪い取る。飢えに苦しむ漁村の生き抜くための風習で、座礁した船は村に恵みをもたらし、“ お船様 ”と呼ばれていました。とある年の冬、“ お船様 ” が訪れ、村中が歓喜したのですが、これが悪夢の始まりとなりました。
本作で描かれる、漁や山野の食物に依存し、自然に翻弄されながら生きる人々の姿は、現代人には改めて新鮮で、彼らの息遣いを感じるような生々しい生活描写は、圧倒されるような貧困とサバイバルであり、読み易い文章も相まって、すぐに物語に入り込んでいける作品です。そして、難破船がもたらす悪夢には戦慄を覚えながらも、本作の「乾燥」した文章のせいか、感情的にならず、不思議と暗さはない作品です。私にとっては、難破船がもたらす悲劇も衝撃的でしたが、細部まで描かれている孤立した漁村の人々の暮らしは、むき出しの生命に触れるような衝撃と印象のある作品でした。
コメント