映画『TENET』は、説明が少なく “ 難解 ” な作品といわれます。はじめは私も状況が把握できませんでした。なんとなくあらすじは掴めるものの、ディティールはどうしても消化不良に。もう一度観てみると理解は進む一方で、新たな疑問が浮かんできたり。それだけに繰り返し、確認しながら観る楽しみがある作品で、私も何度も観ました。
頭の整理を兼ねて、映画『TENET』について自分の理解をまとめてみました。
オペラハウス襲撃事件(ウクライナ)
まず映画はオペラハウスの襲撃シーンから始まります。
オペラハウス襲撃は、冒頭シーンにも関わらず、特に説明もなく展開していくので、状況が把握できないまま話が進んでいきます。まずは、ここで起こった出来事を確認していきましょう。
- ウクライナにあるオペラハウスがテロ組織に襲撃される
- 治安部隊が突入するが、治安部隊は劇場を爆破しようとする
- 主人公(CIA)は、治安部隊にスパイとして潜入する
- 仲間(CIA)の一人は、政府要人とVIP席に
- その仲間(CIA)から “ 荷 ” を受け取る
- 爆破前に脱出するも、テロ組織に捕まってしまい拷問
- 拷問で “ 荷 ” の在りかを問われるも口を割らず、自殺ピルを飲み込む
“ 荷 ” を確保することが主人公のこのときのミッションでしたが、次のシーンでは、これがテストであったことが分かります。さらに後段のシーンでは、 “ 荷 ” がプルトニウム241というアルゴリズムだということ、またセイターがこの襲撃事件でプルトニウム241を盗もうとしていたことが分かります。
オペラハウス襲撃事件に関する情報については、これ以上は描かれていません。ですので、想像が入ってしまうのですが以下のような状況だったと推察します。
- オペラハウスで政府要人とCIAとの間でプルトニウム241の取引が行われた
- TENETはテストを行うため、オペラハウスで取引が行われる情報をセイターにあえてリークしていた
- セイターは、襲撃事件を装いオペラハウスでプルトニウム241を強奪を目論む
- 邪魔されずに強奪するため、また証拠隠滅のため、セイターは自分の息がかかった治安部隊を準備
- 主人公の使命は、治安部隊に潜り込みプルトニウム241を強奪されるのを阻むこと(のちにテストと分かる)
- プルトニウムの強奪を阻むことに成功するも、主人公は拷問され、自殺ピルを飲み込む。
つまり、オペラハウス襲撃事件は、セイターが狙うプルトニウム241を餌にした、のちに出てくる組織「TENET」のメンバー選抜テストであり、次のシーンで目を覚ました主人公は、自身が合格したことを知ることになります。(ちなみに襲撃事件に関わった他の仲間(CIA)はテストをパスできず全員死亡しています。)
少し疑問が湧いてきます。TENETは未来で創られ、その黒幕は主人公本人であることが、最後に分かります。なぜ未来の自分が過去の自分にテストをしたのかでしょうか?
まずはセイターを阻止する人材が必要だったのでしょう。ただ、主人公自身が過去の時間帯において、その役割を果たしてきていることを知っているので、自身が選抜されてセイターを阻止するという “ 過去を作るため ” と言えるでしょう。
こう言うと、 “ 過去を作る ” という選択をしなかったら?という疑問が浮かんできます。これを言い換えると「オペラハウス襲撃事件の原因をつくらなかったら?」となります。しかし、襲撃事件に関わるという “ 結果 ” がある以上、選抜テスト実施という “ 原因 ” は必ずあります。
つまり、「それが起こったこと」なのです。
未来から逆行してくれば、原因は未来にあり、結果は過去にあります。順行の人間から見れば、未来での行動は、すでに見てきた “ 過去を作る ” ように見えますが、未来でそういう行動をとった結果、起こったことなのです。
そう考えると、ニールが何度か言う台詞「起こったことは仕方がない」の意味が分かる気がします。時間を遡っても起こったことは変えられないのです。起こったことがすべてなのです。(本作ではSFファンタジーにありがちな、タイムマシンで未来/過去を変えるという概念を忘れた方が良さそうです。)
船内
自殺ピルを飲み込んだ主人公ですが、船の中のベッドで目を覚まします。そこでオペラハウス襲撃事件で仲間は皆死に、テストに合格したのは主人公だけだと告げられます。そしてミッションを与えられます。告げられた使命は以下のとおり。
- 人類が生き残るために、国家を超越した任務だ
以上(笑)
ここでようやく状況、舞台設定の説明かと思いきや、まだまだ全貌は見えてきませんね。本作は情報が少しずつ開示されていくので、観ながら紐解かれていく面白さがあります。
研究所
船内で目を覚ましてから、灯台に連れていかれ、そこで待っていると船の迎えが来ます、港につき車にのるとナビがすでにセットされており、ナビに従って進むと研究所らしきところに着きます。そこで女性研究員(バーバラ)との会話で新たな事実が分かってきます。
研究所での出来事を確認してみましょう。
- バーバラによると目的は、第三次世界大戦を防ぐこと
- それは核戦争による破滅のことではないらしい、もっと悲惨なこと
- 主人公は空の銃を壁に向けて撃つと、壁から弾丸が戻ってくる現象を体験(逆行弾)
- バーバラ曰く、「エントロピーが減少すると逆再生にみえる。おそらく核融合の逆放射」
- 逆行弾は未来の誰かが作って(時間を逆行して)過去へ送られてきたもの
- バーバラの仕事は逆行してきたものを分析すること
- 弾丸以外にも様々なものが未来から届いているが、それらは “ 来るべき戦争の残骸 ” だという
このシーンで時間の逆行がテーマになっていることが分かってきます。未来の人類は時間を逆行する技術を手にしているようです。バーバラは逆行現象について「エントロピーが減少すると逆再生にみえる。おそらく核融合の逆放射」と言っていました。
エントロピーとは、状態の「乱雑さ」に関係する指標です。そしてこのエントロピーには、「エントロピー増大の法則」があり、エントロピー変化が負になることはありません。日常的な例を見てみると、水槽に落としたインクは、水槽内に広がっていきますし、コップのお湯は時間が経てば室温と同じになります。一点にまとまっていたインクの粒子は水の中に拡散し、コップのお湯の熱エネルギーも室内に拡散し、乱雑さ(エントロピー)を増していきます。この自発的変化の方向性をエントロピー増大の法則といいます。日常生活の中で、この自発的変化の方向性を私たちは感覚的に知っていますよね。
バーバラはエントロピーが減少すれば、逆再生に見えると言っています。確かに水槽に広がったインクが一点に集まってくれば逆再生に見えるでしょう。そしてエントロピーが減少する原因を「核融合の逆放射」と言っています。
太陽で起きている核融合を見てみると、太陽の中では、4つの水素原子でヘリウム1つがつくられています。水素の原子核は陽子が1つ。ヘリウムは陽子2つと中性子2つであるため、水素の陽子2つを中性子に変えます。電荷が+1の陽子が電荷ゼロの中性子になるので、陽電子(電荷+1)が2つ発生します。
バーバラの言う「核融合の逆放射」が何のことを言っているのか正確にはわかりません。ただ、前述の核融合の過程で発生する陽電子は、電子の「反粒子」で、「反粒子」は素粒子物理学の分野では、 “ 時間を逆行する ” 振る舞いをすることで知られています。おそらくバーバラは「反粒子」の時間を逆行する性質のことを言っており、それがエントロピーを減少させる(逆行させる)原因だと言っているのだと思います。
ちなみに、すべてのミクロな物質粒子には、質量や性質が同じで、電荷がプラス・マイナス逆の「反粒子」が存在しています(例えば電子と陽電子)。その「反粒子」で構成される原子は「反原子」、「反原子」が集まって「反分子」ができるので、「反水」「反空気」「反地球」「反アイスクリーム」なども理論的には存在しうるそうです。*1
*1 村山斉『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎 2013年)
これら「反物質」は、「物質」に触れると消滅する性質があります。映画の中でも、タリンのフリーポートで逆行する主人公に対して、「過去(順行)の自分に触れれば対消滅する」という台詞が出てきます。つまり、回転ドアを通ったモノや人は、「反物質」になることを示唆しており、「反粒子」の性質である “ 時間の逆行 ” が可能になる設定だと理解をしています。
この研究所のシーンで、映画の世界観が、かなり明らかになってきましたね。
このあと主人公は、逆行弾について調べるべく、インドのムンバイへ向かいます。
ムンバイ(インド)
主人公はムンバイに到着し、サンジェイ・シンに会いに行きます。その理由は、逆行弾の金属配合がインド特有のものであったため、インドの大物武器商人である彼が、逆行弾に関わっていると考えたためです。
また、ムンバイでは相棒になるニールとはじめて会います。「任務中は(アルコールは)飲まないだろ?」(ニール)、「よく調べているな」(主人公)という会話がありましたが、ニールの言葉は、以前から彼を知っているという伏線になっていましたね。
ムンバイで起きた出来事の確認です。
- サンジェイの元にたどり着くが、サンジェイではなく、妻のプリヤが武器商売の黒幕だった
- プリヤは主人公に、逆行弾に関わっているのは、アンドレイ・セイターだと教える
- セイターは、プルトニウムで富を築いた人物で、今はロンドンにいる
- セイターは、現在と未来の仲介役だという
- また、プリヤ曰く、誰もが未来と交信していると。Eメール、クレジットカード、記録は未来につながっている。問題は未来が返事をするかどうか
- 主人公はセイターの謎を突き止めてほしいと、逆にプリヤに頼まれる。
- 情報源として、英国情報局のある人物を紹介される
のちのシーンで分かりますが、プリヤもTENETのメンバーです。セイターを調べるように主人公を仕向けていますね。ただまだ主人公にアルゴリズムのことなど、詳細な話はしていません。この時点では主人公は、逆行弾にセイターが関わっているというくらいの情報しか知りません。
また、プリヤの話の中で、「誰もが未来と交信している・・・記録は未来につながっている」という台詞がありました。今後、物語を見る上でのポイントを提示していくれている台詞です。メールやクレジットカードなど記録に残る行為は、未来に情報を発信しているのと同じことになります。SOSのメールや電話をすれば、未来の誰かがその記録を見て、時間を遡り救出することもできるだろうし、記録に残ったために、未来の人間に行動を読まれるということもあるということです。
そして、セイターに近づくため、英国情報局の人間に会いに行きます。
ロンドン(クロズビーと面会)
主人公は英国情報局のクロズビーと面会し、セイターについての情報を得ます。
- セイターはソ連の核関連の秘密都市スタルスク12の出身である
- スタルスク12は1970年代に(核関連の)事故が起き、捨てられた街になった
- 現在スタルスク12は、地下実験地となっている
- 2週間前のオペラハウス襲撃事件の日、スタルスク12で爆発があった
- セイターは金の力と妻を利用し、英国支配階級へ
- 妻は、キャサリン・バートン、バートン卿の姪
セイターが核関連の街スタルスク12の出身であることがわかります。プルトニウムで富を築いたというプリヤの話とつじつまが合いそうですね。そしてここで、オペラハウス襲撃事件と同じ日にスタルスク12で爆発があったことが分かります。このスタルスク12の爆発が、セイターとの最終決戦であったことは、後段のシーンで明らかになっていきます。
またクロズビーは、セイターに会うために以下のことを主人公に伝えます。
- セイターに会うには、妻キャサリンを利用すること
- キャサリンに会うため、ゴヤの贋作を渡される。作者はアレポという人物
- キャサリンはアレポとデキてた。贋作をダシにセイターとの仲介を依頼できる
- アレポの贋作はもう一つあり、キャサリンが鑑定し、競売にかけられ、セイターが落札している
ゴヤの贋作を手に、キャサリンの元に向かいます。
ロンドン(キャサリンと面会)
主人公は、キャサリンと面会します。セイターとの仲介を依頼しますが、はじめはなかなか取り合ってくれない様子でした。話をしているうちに、セイターは、美術品詐欺でキャサリンを起訴すると脅迫されていることを知ります。セイターは彼女の自由を奪い、支配するために、贋作と分かっていながら絵を落札していたのです。
キャサリンは、セイターと戦うことも、離れることもできない、ただ乞うだけだといいます。なので、彼女はもう一度、彼を愛そうとした、そのときの話を始めます。内容は以下のとおり。
- ベトナムの海でバカンスを過ごしているときだった
- ベトナムの夕日を眺め、彼を愛していた昔に戻れるかもしれないと感じた
- しかしセイターは、「自由になりたければ息子はあきらめろ」と
- キャサリンは怒り、息子と船を降りた
- でもキャサリンは呼び戻されます。再度、船に近づいたとき、船から海に飛び込む女の姿を見た
- 船に戻ってもセイターはいなかった
ここで話されているベトナムのバカンスの日は、オペラハウス襲撃事件とスタルスク12爆発と同じ日です。キャサリンが見た飛び込む女は、逆行で未来から戻ってきた自分自身の姿であることがのちに分かります。そしてセイターは、オペラハウス襲撃事件の日であるため、一時的にベトナムから離れているはずです。キャサリンを船に呼び戻したのは、未来から逆行して来た方のセイターでした。
なぜセイターがベトナムのこの時間にまで逆行して来たのかは、彼がこの場所でキャサリンの愛を感じた場所だったこと、そして、そこを死に場所に選んだからだということが、後段のシーンで明らかになります。未来のキャサリンもセイターの企みを阻止するため、ベトナムのこの時間まで逆行していたのでした。(詳細はのちほど解説)
さて、キャサリンとの面会は、セイターの手下の邪魔が入り、すぐに終わってしまいますが、主人公は、セイターから絵を奪い、キャサリンを自由にすると言い、キャサリンに連絡先を伝えることができました。そして翌日、キャサリンと会い、以下の情報を得ます。
- おそらく絵は、オスロのフリーポート(ロータス社の金庫室)にある
- 年に5回ほどセイターはそこに行く
- 絵を見にいくのではない、セイターにとって大事なのはフリーポート自体だと
後段のシーンで、フリーポートには、逆行を生み出す「回転ドア」があることが分かります。セイターにとって大事なのは、この回転ドアのことでした。
そして、主人公たちは、オスロのフリーポートへ向かいます。
オスロ(フリーポート)
主人公たちはフリーポートを強襲します。(ご覧になられたとおりです。)
フリーポートでは中心部の金庫室を狙いました。そして、そこにあったのは、回転ドア。回転ドアからは黒ずくめの逆行兵士と順行兵士が出てきて格闘になります。のちにそれが逆行してきた未来の自分だと知るのですが。主人公は未来から逆行してきた自分と格闘し、ニールは逆行から順行に戻った主人公と格闘しています。なので、二人の黒ずくめの兵士は同一人物(主人公)なのです。
結局、絵はあったのかどうかもわからず、逆行する兵士を目の当たりにした主人公は、もはや絵や逆行弾どころの話ではないと考えます。そして、ここに導いたプリヤの元に再び向かいます。
ちなみに、このシーンの中でも探しているものが、核としてのプルトニウムという会話が出てきます。主人公は、まだアルゴリズムのことを聞かされていないため、セイターから核としてのプルトニウムを奪取することが使命なのだと、このときは思っていたのでしょう。
ムンバイ(インド)その2
主人公は再びプリヤに会うために、ムンバイに来ます。そして、プリヤの話で以下のことが分かります。
- 回転ドアは「逆行」を生じさせるマシンであること
- 回転ドアは未来から送られてきたということ
そして、未来から「回転ドア」がセイターの元に送られてきた理由を探るよう主人公はプリヤに指示されます。しかし、主人公はまだセイターに会えていなかったことから、プリヤはセイターが狙っているという「プルトニウム241」を餌にセイターに近づくよう提案してきます。詳細は以下のとおり。
- オペラハウス襲撃事件でセイターが狙っていた “ 荷 ” は「プルトニウム241」だった
- 現在は、ウクライナ保安庁が保管しており、一週間後にタリン(エストニア)に移動する
主人公はプリヤの話を聞き、「核兵器の原料だ 武器商人(セイター)のために盗むわけにはいかない」と言います。まだアルゴリズムのことは聞かされていないので、核としてのプルトニウムだと思っています。また、プリヤもこの時点では、勘違いを正そうとはしていません。この理由はのとほど明らかになります。
さらに主人公は、「セイターを殺す」と言いだします。確かに主人公が知っている情報は限られているので、セイターを殺せば問題は解決すると思ったのでしょう。しかし、プリヤは次のように主人公に言います。
- セイターの企みを阻止しなければ、大惨事になる
- 大惨事とは、未来からの攻撃
- セイターの役割を明らかにすること
ここで、バーバラの言っていた「第三次世界大戦」とは、 “ 未来の人類 ” による “ 現在の人類 ” への攻撃であることが明らかになります。そしてセイターは、回転ドアが送られてくるなど、未来人とつながりを持ち、何らかの役割を担っていることがはっきりしました。
ベトナム
主人公は、セイターに会うべく、ベトナムに向かいます。キャサリンにはとりあえず絵は処分したと嘘をついて、取り次いでもらえることに。(食事に招待され、あぶなく殺される感じだったが、主人公の「オペラは?」という言葉に何かあると感じ、セーリングに誘われる。)
主人公は、プリヤの言うとおりにプルトニウム241でセイターを釣ろうとします。
- 2008年何者かがロシアのミサイル基地を制圧
- 1週間後、核弾頭の重さが4分の1になっていた
- 消えた「プルトニウム241」はオペラハウスにあった
これは主人公の作り話です。やはりプルトニウム241が核だと思っているので上記のような言いっぷりになったのでしょう。
また、セイターと主人公の会話(と回想シーン)で、次のことが明らかになりました。
- スタルスク12で爆発事故があり弾頭が地上に散らばった
- アンドレイ・セイターは10代のとき、瓦礫をあさりプルトニウムを探す仕事をしていた
- このとき未来人からメッセージを発見し、未来人と契約をした
セイターが未来人とつながるきっかけが描かれていました。未来人は金塊を報酬にセイターに何かをやらろうとしています。(この段階では、セイターは未来人のためにプルトニウム241を奪取しようとしていることはわかりますが、その詳細は、のちのプリヤと主人公との会話で明らかになります。)
主人公は、プルトニウム241がウクライナからトリエステの長期保管所へ移動するため、途中のタリンで奪うことをセイターに提案し、タリンへ向かいます。(セイターもタリンへ)
タリン(エストニア)
主人公とニールは、タリンでプルトニウム241を奪う具体的な計画を立てていきます。その会話の中で、未来から送られてくる金塊は、何世紀も見つからない秘密のポストでセイターは回収しているのだといいます。のちにセイターは集めたアルゴリズムをスタルスク12に埋めようとしていたことから、そこが未来とのやりとりを行う秘密のポストになっていたのでしょう。確かに核実験地であれば、人も近づかないし、途中で誰かに掘り起こされる心配は少ないでしょう。
プルトニウム241を奪うために、主人公はタリンに向かい、輸送中のプルトニウム241の奪取を仕掛けます。もちろんセイターもタリンに。しかし、セイターは主人公を完全に信用はしていませんでした。セイターは、プルトニウム241を盗む主人公に対して、現在と未来から “ 挟撃作戦 ” を仕掛けます。
このシーンは本作の中でも一番難解なシーンと言ってもいいでしょう。順行目線、逆行目線、主人公目線、セイター目線、これらが交差しながら描かれているので、頭が混乱してきます。
起こった出来事を時系列にまとめてみました。縦の位置関係が同じなら、同じ時間に起きた出来事です。(順行主人公を基準に出来事を追っていくと分かりやすいでしょう)
<注記(※1~8)>
- 逆行セイターと一緒にいるため紛らわしいが、タリンのプルトニウム強奪作戦において、キャサリンは銃で撃たれ回復させるために逆行するまでは、順行である。
- 順行のセイターは、プルの在りかを主人公が逆行セイターに吐いたことを確認し、回転ドアに入っていく、逆行してプル241の在りかを吐くという“結果”を得られるように原因を作る行動をとっていく。(逆行の世界は“結果”と“原因”の順番が逆になるため、いわば、逆行して“過去を作る”作業になる。)セイターは逆行側に行き、検証窓でプル241の在りかを吐かせることができたが、のちにグローブボックスには入ってないことが分かり、さらに逆行していくとシルバーのセダンの中にプル241があることを知る。
- 逆行セイターにとっては回転ドアから出てきたところだが、逆行セイターの行動は時間を遡っているため、順行の主人公目線で見ると、回転ドアに入っていくように見える。直後のシーンで順行側から逆行側に出ていくセイターのシーンが描かれている。セイター目線の逆行の世界で、ここから時間を折り返し、以降起きることは、順行主人公目線で見てきたとおり。
- セイターは、逆行によりBMWのグローブボックスまでたどり着くが、嘘であることに気づく。さらにケースの受け渡しまで遡ったときに、シルバーのセダンの中にプル241があることに気づく。一瞬ですが、気づいたことがわかるような表情のお芝居をしています。(よーく見るとわかります。)そして順行側に情報を送ります。
- 逆行側のセイターは、プル241の在りかが分かった時点で、順行側のセイターに情報を送っているはずで、このとき既に情報は知っていたはずなのに、どうしてこういうセリフを言ったのか? ⇒ 順行セイターは、主人公が在りかを吐いたという“結果”がでていないと、逆行しても意味がないため、確認のため聞いたと思われます。
- 順行セイターは、“過去を作る”ため、逆行側に入っていくが、そのまま順行に残った手下たちが、シルバーのセダンがフリーポートに停車しているところまで、時間を進み、プル241を確保したと思われる。
- すべてのアルゴリズムをそろえた逆行セイターは、そのままオペラハウス襲撃事件の日まで逆行していきます。彼がその日を選んだ理由はのちのシーンで語られていきます。
- キャサリンを救うため、逆行した主人公たちは、もう一度順行に戻るため、オスロの空港まで逆行していきます。
結局、セイターは、プルトニウム241を奪い、そのまま過去へ逆行していきます(オペラハウス襲撃事件、スタルスク12爆発があった日まで)。主人公たちも逆行し、回転ドアのあるオスロの空港に向かいます。
コンテナの中(オスロへ移動中)
主人公は、ニールが自分より以前から、この件について関わってきたと感づき、ニールを問いただします。プリヤの部下ではないとニールは言いますが、詳しくは語りません。(実は主人公自身の部下だったことが最後に分かる。)
そして、タリンでのセイターとの戦闘の中で、セイターが「アルゴリズム」と言っていたことについて、ニールが詳しい話を明らかにします。
- 「アルゴリズム」は、全部で9つある。プルトニウム241はその1つ
- 物理形態を持つある「手順」
- その機能は、モノや人ではなく、世界の時間の「逆行」。世界全体を逆行させる
- 時間の矢の向きが変われば、一瞬で現在の生物は地球上から姿を消す
ここで、プルトニウム241アルゴリズムの正体が明らかになりました。世界を滅ぼしうる装置だということ。そしてセイターが未来人のためにアルゴリズムを集めているということ。なぜ未来人が世界を逆行させようとしているかは、クライマックス(スタルスク12の戦闘)で明らかになります。
オスロ(フリーポート)その2
主人公、ニール、キャサリンは過去の主人公とニールとの戦闘経て、無事順行に戻ることができました。しかし、セイターがいつどこで集めたアルゴリズムを未来に送る(正確にいうとアルゴリズムの隠し場所をなんらかの記録に残す。)かは不明のままです。主人公は、プリヤに会うことにします。
オスロ(どこかの寺院)その3
主人公は、オスロでプリヤと会います。そこで、物語の背景がわかってきます。
- アルゴリズムは未来でつくられ、世界にたった一つしかない
- つくったのは何世代も未来の科学者
- その科学者は、アルゴリズムで過去の人類を滅ぼせば、その子孫である未来人も滅びると確信していた
- 科学者はアルゴリズムを9つに分割し、過去へ隠した(過去へ送った)
- そして自身は自殺
まず、アルゴリズムをつくった科学者は、その危険性を認識し、アルゴリズムを9つに分割し、過去へ隠したことがわかりました。そしてアルゴリズムを利用したい未来人が、セイターを使って、収集を行っているようです。しかし、なぜ未来人がアルゴリズムを使って世界を逆行させたいかは、まだ謎のままです。
- セイターはプルトニウム241を入手し、9つすべてを集めた
- プリヤの狙いは、一度セイターすべてのアルゴリズムを集めさせてから、そろったアルゴリズムを押さえること
- 主人公にアルゴリズムの詳細を教えていなかったのは、知っていれば、プルトニウム241をセイターに渡さないだろうと考えたから(なのでずっと核兵器の材料になるPuだと思っていた)
- セイターがいつどこで9つのアルゴリズムを集めるかは不明のまま
セイターが9つすべてを集めたことから、主人公の役目(プルトニウム241盗み、セイターに盗まれること)は終わったとプリヤは言います。しかし、プリヤ自身もセイターがいつ、どこにすべてのアルゴリズムを集めるか、分からない状況でした。そこで主人公は、おおよその検討がついているとハッタリをかまし、TENETの部隊と合流し、アルゴリズム奪還作戦を行うことになります。
ちなみにこのシーンで、TENETが未来でつくられた組織であることが明らかになりました。未来には、世界を逆行させたい勢力とそれを阻止したい勢力がいるようですね。
トロンヘイムの沖(船内)
TENETの部隊と合流した三人は、セイターがいつどこで9つのアルゴリズムを集めるか話し合います。そしてセイターについて新たな事実が分かってきます。
- セイターは末期のすい臓がんである
- セイターのしている腕時計は常に彼の脈拍を計測しており、彼の心臓がとまれば、アルゴリズムを隠す秘密のポストの場所が送信されるようになっている(アルゴリズムは起動される)
- つまり、彼の死は人類の滅亡につながる。セイターは世界を道連れに死のうとしている
- 以前、キャサリンが「彼を愛そうとした」と言っていたことを思い出す
- その日は、オペラハウス襲撃事件とスタルスク12で爆発があった日
- セイターは、過去の自分がいない空白の時間で、かつてキャットの愛を取り戻せそうになったベトナムのあの時を、自分の死に場所にすると、三人は考えます。
- そして、その日にスタルスク12で爆発があったことから、爆発でアルゴリズムを封印したと思われる。
- そこが「秘密のポスト」であり、爆発前にアルゴリズムを奪取することに
- キャサリンには、ベトナムのあの日まで逆行してもらい、アルゴリズムを奪取するまで、セイターの死を引き延ばすよう指示する
いよいよ、最終決戦に向けて状況がはっきりしてきました。あと一つわからないのは、未来の人類がアルゴリズムを起動させたい理由ですね。
主人公とニールは、アルゴリズムを奪取するためにスタルスク12へ向かいます。
スタルスク12
さあ、いよいよ最終決戦まで来ました。スタルスク12では、アルゴリズムを奪還するため、レッド(順行)チームとブルー(逆行)チームに別れた “ 挟撃作戦 ” を実行します。
アイブスと主人公はレッドチームの別動隊としてアルゴリズム奪取のため、2人で爆心地に向かいます。アルゴリズムの在りかを知る者は最小限にしたいためでしょう。アルゴリズムの所在を知る者がいるということは、未来に情報を残すことになるため、アイブスの台詞にもあるように「帰ることのできない任務」つまり、奪取に成功しても生きては帰れない任務なのです。
スタルスク12の挟撃作戦について、時系列をまとめました。タリンの挟撃作戦よりはシンプルですが、それでも初見では理解しずらいと思いますので、じっくり確認してみてください。
<注記(※1~3)>
- レッドチームの目的は、ブルーチームのための脱出経路を確保(別動隊が爆心地へ)
- ブルーチームの目的は、敵の除去と情報収集
- 順行に戻った自分を目撃している
一方、キャサリンは、ベトナムのセイターの船に向かいます。逆行で戻ってきたセイターと船で再会します。このときセイターは、逆行で戻ってきたキャサリンだとは知りません。
ベトナムの海から、スタルスク12のポルコフに指示を出すセイターですが、途中、主人公とも話す場面がありました。その中で、「海面は上昇し 川は干し上がる 彼らは引き返すしかなかった 我々のせいで」という台詞が出てきます。ずっと謎だった未来人が時間を逆行させようとする理由は、これのようですね。
結末は、ご覧になられたとおりです。アルゴリズムの所在を知る、アイブス、ニール、主人公は、お互いにお互いを見逃し合い、アルゴリズムを分割して隠すことにしました。ただ、ニールだけは主人公を助けるため、再度逆行し、命を落とすことになります。「また過去を作る」といって去っていく姿は、涙を誘いましたね。
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